第69回品川セミナー
植物は私たちの身の周りで様々な造形を見せてくれます。それらの形は植物体の構成要素である細胞の形態や空間パターンによって決められています。植物細胞は動物細胞とは違い細胞壁によって囲まれており、細胞の相対位置を変えたり、一度造った細胞の形を元に戻したりすることができないため、その形態や空間パターンの制御は厳密に行われる必要があります。こうした植物の形づくりの過程はどの様に制御されているのでしょうか。植物細胞の形態形成や空間パターン形成を研究するうえで、根毛はよいモデルケースとされてきました。根毛は根の表皮細胞が部分的に伸長することによってできる毛状の構造であり、水分や養分の吸収、根の地中への固定など、地下部での重要な役割を果たします。モデル実験植物のシロイヌナズナでは、根の特定の表皮細胞から根毛が形成され、その細胞の空間パターンは厳密に決まっています。また、根毛を形成する表皮細胞において根毛が発生する位置も定まっています。この空間パターンや細胞形態に異常が起こる突然変異体や形質転換体のシロイヌナズナを利用して、多くの植物科学者が植物の形づくりの仕組みについての研究を行っています。
本講演では主に植物分子遺伝学の研究から判った細胞パターン形成、細胞形態形成の仕組みを、シロイヌナズナの根毛形成過程をモデルケースにして出来るだけ易しく紹介します。