第24回品川セミナー
私が医学研究科から、東南アジア研究所(以下「東南研」)へ異動してから16年が過ぎました。この間に東南研からは一般に「フィールドワーク」、東南研では「出た者勝ち」と呼ばれる人気のある研究方法を学びました。一方私が着任当時の東南研所長が医学研究科の主たる研究活動であるラボワークを「試験管を振る研究」とおしゃっておられました。私の研究チームは、この16年間「フィールドワーク」と「試験管振り」を組み合わせたクロスオーバースタイルを用いて、東南アジアとその周辺地域の環境中に分布する病原体がヒトに感染症を起こすまでのプロセスを研究してきました。特に過去5年間は、東南アジアで越境する感染症というテーマに取り組んできましたので、これらの研究を通して明らかにしてきた代表的な成果を紹介させていただきます。例えば、1996年頃アジアにおいて、魚介類由来食中毒の原因細菌として知られる腸炎ビブリオに新型菌が出現し、世界各地へその感染症が広がっていることおよび伝播を媒介するものは、輸出入二枚貝であることを明らかにし、我が国でも輸入ハマグリからこの新型菌を検出しました。一方蚊媒介性感染症チームは、世界的に感染が広がって問題になっているデング熱が、我が国ではバリから帰国する旅行者に多い理由を明らかにしました。
写真1.腸炎ビブリオは魚介類の汚染を介して食中毒をおこす。1996年に下痢患者から発見した新型腸炎ビブリオは、後に世界的大流行を起こした。新型菌をはじめて見つけた魚介類は、タイ産のアカガイ(ハイガイ)であった。フィルターフィーダーである二枚貝の消化管には菌が大量に蓄積している。
写真2. アカガイを十分に加熱しないで喫食する習慣のあるタイでは、新型腸炎ビブリオ感染症が多発していた。このためFAO/WHOは現地の大学の協力を得て、アカガイのリスクアセスメントを実施した。
写真3. ベトナムでは、衛生状態の良くない環境で生活する貧しい人々は、 腸炎ビブリオに感染していなかった。そのわけは?