第19回品川セミナー
1905年にアインシュタインは物理学史上に残る有名な論文を次々に3つ発表しました。このため1905年は奇跡の年とも呼ばれています。これらの論文は、互いに等速度で運動する座標系では同じ物理法則が成り立つことを主張する特殊相対性理論、光が粒子の集まりとして振舞うことを指摘した光電効果の理論、さらに、微小粒子がそれを取り巻く媒質の熱運動で動かされるようすを記述するブラウン運動の理論を展開したものです。それぞれ、特殊相対性理論、量子力学、統計力学へと発展して20世紀の物理学の柱を形成しました。
しかし、アインシュタインの最も重要な仕事は何かと問われると、それは重力の力を時空の幾何学で説明した一般相対性理論になるでしょう。一般相対論は、特殊相対論や量子力学など20世紀を通じてその正しさが確立された理論とは違って、まだその一部には未完成なところがあり、今世紀における中心的な研究課題となっています。特に、すべての物質が一点に集中した宇宙の始まりや、光も逃げだせないブラックホールの時空などはミステリーに包まれており、一般相対論には多くの謎が残されています。
今、この謎に挑戦しようとしているのが、素粒子を1次元的に広がった紐と考える超弦理論(superstring theory)です。超弦理論にはこの10数年間で著しい進展があり、理論の理解が大きく進みましたが、特にある種のブラックホールの量子状態を一つずつ数え上げることに成功しています。
この講演では、アインシュタインの夢を実現しようとしている超弦理論がどこまで進展しているのか、残された困難は何かなどについて紹介したいと思います。