第14回品川セミナー

「ゆっくり話を聴く」ということ
:臨床対話の認知科学

平成237月1日(金) 
17:30より

吉川左紀子(こころの未来研究センター、教授・センター長)

私たちは悩み事を抱えているときや、いらだったり不安なときに、人とゆっくり話をしたい、自分の気持ちを誰かに聴いてもらいたいと感じることがあります。自分の思いを相手に受けとめてもらうと、それだけで安らぎが得られることは、だれしも一度は経験したことがあるのではないでしょうか。

「ゆっくり話を聴く人」には、重い心を軽くしたり、不快な気持ちを和らげる力があるようです。深層心理学のカウンセリングでは、訓練を積んだ専門家が聴き手となって、比較的長い時間(50分間)の対話を重ねてゆきます。それによって悩みの解消が促され自己理解が深まることが経験的に知られており、「聴くこと」は、心のケアのもっとも重要な手法として確立しています。ですが、なぜ「話を聴いてもらうこと」がこころの安定をもたらすのか、その仕組みについては、心の科学という観点からみると、まだよく分かっているとはいえません。

私の所属するこころの未来研究センターでは、臨床心理学の専門家と認知心理学者、社会心理学者が「ゆっくり話を聴くことと、話す人のこころ」に焦点をあてて、カウンセリング対話の映像や発話の特徴を分析し、そこで何が起こるのかを研究しています。今回のセミナーでは、これまでの私たちの研究の流れをお話ししながら、「ゆっくり話を聴く」ことの意味について、考えてみたいと思います。