8回品川セミナー

「参加型方式による防災とまちづくり
:事例からみる可能性と課題」

共催:日本学術会議サイエンスカフェ

平成2日(金) 17:30より

岡田憲夫(防災研究所、教授・所長)

1995年1月17日未明。20世紀から21世紀に時代は移ろうとしていた我が国を襲った阪神・淡路大震災は、それまでの防災の考え方に多くの反省・教訓と課題を突き付けた。都市やまちづくりのあり方も根底から問い直すことが必要となった。奇しくも、21世紀の幕開けとともに、我が国はもとより、アジアをはじめとする地球社会のそこかしこで、個別の様相は多様であるものの、同じような発想転換と学問の進化を求める災害事例が頻発した。そのような大きな自然現象の衝撃と社会的うねりの中で、総合防災学(Integrated Disaster Risk Management)という新しい学際融合分野が、国際的なレベルで生まれてきた。そして21世紀も10年を過ぎた今、理念や概念づくりから、計画・マネジメントのための理論、実践へ具現化・発展させていくことが問われる段階に近づいている。

今回のセミナーの話題提供の前半部では、まず我が国に焦点を当てる。総合防災学を築く学問的取り組みの中から、見えてきた可能性と課題について説明する。その際、研究者が一定の触媒役と観察・検証役を果たしながら、行政のみではなく、近隣地域社会や地域企業などが連携して進める参加型方式を取り上げる。まちづくりと結び付ける中で、コミュニティの防災を進めている実例を紹介する。

話題提供の後半部では、途上国も含めたアジア地域という視点から、参加型の意義と限界、国情や地域特性からくる特殊性などについて問題提起をする。その際、実フィールドをベースにして、地道ではあるが積み上げ型で検証していく研究体制づくりの方式の一つとしてCase Station-Field Campus(CASiFiCA)を説明する。これは我が国だけではなく、アジアのいくつかの研究機関や現場とネットワークさせながら、5年から10年単位で鳥の眼と蟻の眼を合わせた観察を共同で行うものである。これにより実践可能な見込みがある方法や対策の候補を互いに検証し合いながら、成功モデルを見出していく方式でもある。

最後に、提供した話題を糸口に、本セミナー参加者の皆様と、参加型方式による防災とまちづくりへの期待と疑問について質疑応答し、今後の総合防災学の新しい課題の発掘の場とできればと念じている。